精魂込めて、下絵を描き、染めを施しても、もともと生地が悪ければ良いものには仕上がりません。

最初からやる気も出ません。

マルニ友禅工房で主に使用している生地は主に、

塩瀬と塩瀬絽は、五泉産の駒駒塩瀬か駒塩瀬

縮緬は、丹後か長浜産の古代または鬼しぼ

など。

その他、紬や地紋有りの変わり織りなども、しっかりとした良い生地を使用します。

現在は養蚕のほとんどを海外に頼っているのが現実です。

織も外国による物も出回っていますが、値段が安い代わりに、締め心地が悪い、染めると難が出る、着物にするとひざが出やすい、なども多いようですので、当方では使用いたしません。

今、東京多摩地区や福島県などあちらこちらで、日本蚕糸業を復活発展させようという動きが出ています。

そのような動きに参加、応援したい気持ちもあり、日本産の蚕糸を使用した絹もできる限り使っていきたいと思っています。

 

『新古生地について』

それとは別に、マルニ友禅工房が試みているのが“古い白生地の復活” です。

呉服屋さんなどに眠っている古い白生地達を蘇らせたいのです。

大切な絹ですから。

黄変していたり、シミがあったり、ごく稀ですがひどい時は穴があいていることもあります。

でも古い生地は、もともととても質が良いことが多いのです。

現代のものにはない独特の質感の生地もあります。

ひとつずつ違う古生地をよく見て、洗い張りをしたり、地入れ直したりしながら、生かし方を見つけていきます。

 

~追記 2020年6月~

新古生地では、染めてみて初めて難が出る場合があります。

そういう場合は地色を変更したり、柄を足したりもしながら仕上げています。

その結果最初の予定とは違った仕上がりになる場合があるため、基本的に新古生地を使用してのお誂え制作はお受けいたしません。

また、手間のかかる細かい図柄を染めると途中で難が出た場合のリスクが大きいため、そして新古生地のお得感を損なわないよう、加工料金を抑えられる図柄でシンプルでいて使い勝手の良い帯を目指しています。

 

古い物との出会いは一期一会、だからこそ面白いのです。

そのようにして蘇らせた生地は、訳ありの帯として販売しております。 (下のうさぎ帯もそのひとつ)

 

私にとって、絹は特別なものです。

昔はいたるところで養蚕が行われ、子供達はおやつに桑の実を食べ、蚕は“お蚕さま”と呼ばれていました。

お蚕さまが丹念に作った繭から絹糸をいただき、生地に織り上げます。

その生地に向かう時、私は今でもとても緊張します。

ありがたい貴重なものに、私が手を加えるという責任感。

失敗したからといって簡単に処分することはできません。

この絹に失礼にならないよう、必ずさらに貴重なものに生まれ変わらせよう、という想いで生地に向かっています。